イタリアバロック(6)サルエリ「ファルスタッフ」(H67)

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モーツアルト殺人事件の噂があったサルエリのオペラです名は「ファルスタッフ」、ヴェルディの作品で有名ですが、それが出るまではサルエリの作品として名が通っていました。シェクスピアーの「ウインザーの陽気な女房たち」が原作です。台本はヴェルディ‐はアリゴ・ボイド、サルエリがカルロ・デフランチェンスキーです。原作からの抜粋の仕方で時代がわかります。サルエリはイタリア古典時代、ヴェルディはロマン派です。サルエリは舞踏会ではじまりますが、ヴェルディはガーター亭でのレラックスした午後で、こちら人間感情丸出しです。シェクスピアーは騎士たちの会話です。大筋はどちらも、そして原作もファルスタッフの滑稽な浮気を元気いっぱいなウインザーの女房たちがからかいまくるのですが、最後はウインザーの森での陽気なバカ騒ぎ、
ヴェルディの、人生すべて冗談という歌は他の二つにはありません。
世の中全部冗談だ。
人間すべて道化師
誠実なんて兵六玉よ
知性なんて当てにはならぬ
人間残部イカサマ師
みんな他人を笑うけど、
最後に笑うものだけが、
ほんとに笑う者なのだ。
この合唱がないとオペラは変身します。サルエリは古典派、ヴェルディはロマン派。セビリアの理髪師」のパイジェルロとロッシーニ以上の違いがあります。

これはシェックスピアーにない詩で、ここへの誘導がヴェルディの天才的音楽と称えられています。

ここへ通じるのは第5幕第五場ですが、そこにどんな詩があるか調べてみました。
アリゴ・ボーイドの詩ではこうなっています。
「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つめ、八つ、九つ,十、十一、十二、真夜中だ これがあのカシの木だ。神よまもりたまえ!
ジュピターよ!あなたはエウローヴァのための愛のために牛に身をお変えになって角を生やされた。
神は愛のために身をいやしめることを身をもって示された。愛は人を獣にさえ姿を変えさせられる。

原作シェクスピアーはこうです。
ウインザーの鐘が一二時をうった。約束の時刻だ。
情欲の血をたぎらす神々よ、お力添えを頼みます!
ジュピターよ、あなたもエウロべをものにするため白い牡牛になった、恋い故に角をはやしたではありませんか。
ああ、強大なる恋いの力、あるときは獣を人間に変え、またあるときは人間を獣に変える。ーー」

サリエリではどうなっているでしょうか。私の持っているのはエストマン指揮シュトットガルト放送管弦楽団の演奏はマンハイム近郊のシュヴェチンゲン宮殿内にあるロココ劇場で1996年の音楽祭の公演ですが、そこでファルスタッフが歌っているのはこうです。
城の鐘
逢う瀬のときだ。
美男が美女より先に到着
神々の御陰で愛の火種が尽きない
火が衰えないように天より炎を
地上を支配するジュピター神よ
花も土も雨も
白鳥も牡鹿もすべての生き物を育てる神よ

恋が私を成熟の牡鹿に」変えた
良心があるなら味方をしてくれ

サリエリは何とロマンチックな詩になっていることでしょう。
これはこのオペラ全体に通じる姿勢です。ヴェルディのように人生そのものへの考察はサルエリのオペラにはありません。軽快で美しい。これは美点ですがヴェルディにある深みが消えます。それが好きかどうかは人の好みでしょうが、古典派という言葉に近いのはサルエリでしょう。

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