ヘンデル(12)オラトリオ「メサイア」(H38)

画像

ヘンデルの「ハレルヤ・コーラス」は日本で超有名なクラシックです。これがヘンデルの作品で、オラトリオの一部だと知っている人も多いでしょう。ですが他にオラトリオを知っているのは稀です。
 音楽の好きな人ならオラトリオとしてヘンデルの「メサイア」ハイドンの「天地創造」メンデルゾーンの「エリア」などが思い浮かびましょう。元来オラトリオは神様が関係したできごとです。話の進め方は叙事的です。殆どがオペラのようにアリアやレシタチーボ、合唱で進みます。むしろ異例ですが、「メサイア」は新約聖書から一部を切り取って、つなぎ合わせる方法でできています。台本には出典がしめされています。チャールズ・ジェネンズの作品ですが、誰か他の人が興味本位に作ったといわれたことがありました。ジェネンスは金持ちのクリスチャンで,その信仰は格別なものがあり、プロテスタントで、イングランド教会にぞくしますが王家を信奉しました。王家がカソリックであるため矛盾に苦しみ、王家への宣誓拒否者となったという経緯をもちます。ヘンデルのような実際的なセンスの持ち主ではありません。彼の信仰は深く、自作の「メサイア」についても深い思いがあって語句の選択がおこなわれたに違いありません。ヘンデルに頼んだ経緯はともかく、作品に対して最後まで細部にこだわった逸話が多く残っています。その内容は彼の信仰告白です。スミス著赤井訳「チャールズ・ジェネンズ」(聖公会出版)
画像
                  jジェネンズ


ヘンデルのオラトリオには、前回触れたようにオペラと間違うような作品もあります。改めてオラトリオのどこがオペラと違うかといえば叙情的な内容がないこと、それに英語だといいうことぐらいです。「メサイア」と違い、殆どの話が旧約聖書からとられている
ます。旧訳聖書そのものが古代の歴史、昔話ですから、英語国民にとって聞いていて楽しいでしょう。英語が古いし、日本人にはわかりづらいのは難点ですが、話の内容を調べておいて、英語の台本が手元にあればわれわれでも結構楽しめます(ネットのwikipediaのヘンデル・オラトリオの項には台本がのっています)。

ヘンデルは実業家ですから、敵も多く、イタリア・オペラが諦られてくると、行き詰まったようで、悪意の妨害もうけ、ドイツへ帰りたくなりました。57才のときです。ヘンデルは時折演奏して人気があった、「オラトリオ」を本格的に作曲しはじめました。1735~40年で彼は50才に近いころです。それまでに書いたのは「エステル」「アレキサンダーの饗宴」「ソザルメ」などでした。1742年に書いた「メサイア」をもって行き、アイルランドのダブリンで初演しました。これが彼の運命を変えました。大当りで、彼の名声はいっきに回復し、ロンドンで再演せざるをえなくなりました

初演の批評の一部を引用します。
「今週の火曜日(1742年月2日)にヘンデル氏の宗教的グランド・オラトリオ≪メサイア」がフィッシャング街のニュー・ミュージック・ホールで演奏された。最高の批評家もそれが最も完成された音楽であることをみとめている。「メサイア」が憧れを抱いて集まった聴衆に与えた喜びは言葉ではいいつくせない。―――――」
まつわるエピソードがあります。
「演奏中に即興的賛辞がとびだした。主席司祭スイフトの友人ドクター・デレイ二―は「かれは 侮られ」を歌うシバ夫人にすっかり心を奪われ、席を立って、神に使える身にしては幾分僭越気味に、こう叫んだ。「御婦人、あなたはすべての罪がこの歌でゆるされますように!」((ヘンデル)クリストファー・ホグウッド著)
メサイアはオラトリオとして10番目位の曲です。「デボラ」からは英語の台本に作曲を始めます。当時ロンドンではお客は台本を買ってオラトリオを聞くのが普通でしたから、イタリア・オペラと比べ内容がわかりやすいこともあり、ヘンデルのオラトリオを聞くのは一般市民の娯楽となりました。最初のオラトリオ「時と悟りの勝利」はHWV46aで「メサイア」はHWV56です。HWV71が「時と真理の勝利」で合計26曲のオラトリオを書いていますが(30曲とみなす説もある)、複数の台本を書いているのはジェンネスとトーマス・モレルくらいです。
「メサイア」はジェンネスの提案とされています。彼はシェクスピアーの全集を校訂するほどの優れた教養人で、彼の作品が音楽で変容するのを嫌い、何度もヘンデルとうちあわせをしたようです。
ジェネンスとヘンデルは「サウル」「快活の人、沈思の人、中庸の人」「ベルシャザール」でも一緒に仕事をしています。
「メサイア」は12月23日に行われた。その成功をジェネンスに29日に報告していますが、アイルランドを離れるにあたって、彼はジェネンスを訪問しそこなっています。「メサイア」がダブリンで初演されたことにジェネンスはとまどい、やがて、「メサイア」批判を始めます。スカルラッテイからの盗作に始まって、やがて一部の手直しを要求します、そこでヘンデル病気になり、一時攻撃は止むが、治ると攻撃を再開します。手直ししないことで、ヘンデルは熱をだしたのはいい気味だとまでいっています。手直しは次作「ベルシャザール」の時行われます。
英語でオラトリオを書くと言う、ヘンデルの試みは極めて前衛的な試みもので、ジェネンスが原稿をつくったからこそなりたったのでした。
画像
                ジェネンスの豪邸
「メサイア」で取り上げたのはキリスト教の本質的要素である。キリストの誕生と生と死に関する旧約聖書の予言、受肉、復活、昇天などの主要なキリストの奇跡、キリストによる人類の救済、使徒達の権威、世界の他宗教に対するキリスト教の優位生で、これらをこのオラトリオでのべています。概して十字架の問題など著名な出来事はさけられ暗示の力にたよっていますから、台本はわかりづらいものとなっています。
台本の一部をとりあげてみます。3部からなります。最初、ウエルギウス「牧歌」からの引用で始まります。

「いざ我らおおいなる事を歌わん」
「確かに偉大なものは信心の奥義である」
など神の登場の準備は述べられ
第2場にはいると神が登場します
「万軍の主がこう言われる。しばらくしたら私はもう一度天と地と海と乾いたとを揺り動かす」
第3場は神の誕生を述べ、この音信の喜ばしさを皆に伝へ、
第4場では神のおつかいが教えを伝播するさまを描き
「最も高いところでは神に栄光あれ、地上には平安」
第5場ではこの神が本物の神であり、見えない人の目が開かれ,立てないない人が牡鹿のように飛び跳ねる、と知らせる。
第2部では第1場でここに至るまでの神の苦悩が説明される。第2場では神の孤独が説明され、
第3場で彼がわれらの罪を一身に背負い、強い神が登場を示し、
第4,5、6、7場では使いのものが神をたたえ
第8場で待ちに待ったハレルヤコーラスが沸き上がります。
「ハレルヤ!全能なる神が統治しておられる。
この世の王国は我われの主とそのキリストの王国となった。主は永遠に統治される。王の中の王。主の中の主。ハレルや!」

第3部へと続く。ここでは「復活」の話が中心となります。

以上の台本にある全てが今の公演で歌われているとは限りません。
私がもっているメサイアのLD、CDでもかなりの省略があります。
LD ;ホグウッド指揮エンシェントムジーク
CD ;アーノンクール指揮コンチェルトムジークウイーン


この記事へのコメント

この記事へのトラックバック